明日香医院
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いのちを選ばないことを選ぶ
出生前診断のこと
生殖補助医療
いのちのつながり
それぞれのいのち
おわりに
引用文献
生殖補助医療

このように、いのちが選別される一方で、不妊に悩むカップルも増加しています。そして、生殖補助医療、すなわち不妊治療においては、ありとあらゆる技術が開発され、提供されています。体外受精はもはや特別なことではなくなり、日本産科婦人科学会の調査によれば、2003年には新生児の65人にひとりが体外受精児でした。

技術の進歩は、凍結保存受精卵の解凍移植、特定の精子を選んで卵子に注入する顕微受精、無精子症の男性の精巣から未熟な精子を取り出して成熟させて受精させることなども可能にしました。閉経後の女性が他の女性から提供された卵子を使い体外受精で妊娠する方法や、受精卵を他人の子宮に戻す借り腹などの方法もあり、50歳代や60歳代の妊娠・出産など、信じがたい症例があります。その結果、不妊のカップルにとっては、技術があるがゆえに、不妊の事実を受け容れることがますます難しくなっている現実もあります。

現代では、生殖補助医療の技術があるから利用する、利用したい人がいるから技術を開発するといういたちごっこがくり返されている一方、いのちに対する思想や哲学を持ち、思索することが忘れられがちです。そもそも、いのちは作るものでなく授かるものです。ひとりのヒトが生まれることは、自然のいのちの営みであり、そこには、私たちが超えてはいけないもの、やってはいけないこと、私たちが律しなくてはいけない自分、いのちの摂理とでもいうべきものがあるはずです。「いのちを授かる」という感覚の欠如は、いのちに対する畏れの感覚の欠落につながります。

さらに、体外受精による妊娠には、常位胎盤早期剥離など、分娩時の異常が多いことがわかってきました。これらの事実に対し、私は、ふつうはこの世にいない赤ちゃんが、いのちを受けて生まれてくるために乗り越えなくてはいけないハードルがあり、それがお産のときに存在することもあると解釈しています。

また、このようにリスクの高い出産が増加する結果、ひとつひとつのお産に必要な人的・物質的医療資源や医療費も増大します。さらに、その医療費に健康保険が適応される結果、保険診療は赤字となり、国民医療費は逼迫します。
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