明日香医院
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いのちを選ばないことを選ぶ
大野明子 明日香医院(産科医)
出生前診断のこと
生殖補助医療
いのちのつながり
それぞれのいのち
おわりに
引用文献
出生前診断のこと

「出生前診断」という言葉は、お産に先立って、お腹の赤ちゃんの様子を知ることを意味します。けれども、現在、その言葉は、もう少し狭い意味で使われます。すなわち、ダウン症などの染色体異常やそのほかの先天的な障害を持つ赤ちゃんを、妊娠中の早い時期に診断する検査が、いわゆる「出生前診断」です。人工妊娠中絶が可能な時期に異常を発見し、中絶を選択するための検査であると言い換えることもできます。

『子どもを選ばないことを選ぶ』1)を上梓したのは、2003年の初夏です。当時「出生前診断」は「便利な新しい技術」として、さしたる議論もなく、なし崩し的に拡大しつつありました。末端の産科開業医にすぎない私の目の前にも、日々、産む人と家族、そして生まれてくる赤ちゃんがいます。何らかの障害を持って生まれてくる子どももいますし、生まれてきても生きられない子どももいます。すなわち、出生前診断の現実に、産む人とともに常に直面していました。

出生前診断がひたひたと浸透していくことが、産む人や生まれてくる子どもたち、そして社会の未来にとって、何を意味するかを考えたとき、黙っていてはいけないと思いました。産む人が出生前診断を選択するのであれば、みずからが今まさに行おうとしている選択が、お腹のいのちとあなた自身、パートナーにとってどのような意味を持つかについて、きちんと考えてほしいと願いました。そして、あなたを選んで宿った小さないのちを選ぶことなく受け容れるという選択肢があることも、知ってほしいと考えたのです。

『子どもを選ばないことを選ぶ』はとても小さな本ですが、本文中の医学用語については、一般のかたが読んでくださっても理解いただけるように、ていねいな解説をつけました。臨床遺伝医である長谷川知子医師にインタビューし、病気や遺伝相談のこと、ダウン症の子どもたちの療育や暮らしについて伺いました。また、ダウン症の子どもを持つ3人のお母さんの対談や、お父さんへのインタビュー、写真家宮崎雅子さんによる子どもたちの写真も収めました。「世の中はそんなに甘いものではない」というご批判も覚悟した上での出版でしたが、共感を持って受け止めてくださる読者が多かったことにほっとしました。
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