明日香医院
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慈しみ苦しむ。医療者から産む人へ、そして〜
大野: 私は東大で地球化学を専攻していました。大学院で博士号を取った後、長男を産みました。私自身のお産は、仰向けで促進剤を打たれ、最後にはお腹を押されるというものでした。「私の望んだお産は、これじゃない。じゃあ何だろう?」って、赤ちゃんにおっぱいを飲ませながら、ずっと考え続けました。仰向けで産むのは重力に逆らっていておかしい。本当は自分の力で産めるはず。ミルクについても、人間の子どもをあんな白い粉を水で溶いたもので育てるのはおかしい、おっぱいがいいに決まっていると思ったのです。

そこで、産科医になろうと思いたち、子どもが2歳になる直前に医大に入学しました。そしていくら勉強しても、私の直感が違っているということはありませんでした。基礎医学も臨床医学も学べば学ぶほど、自然の摂理で生まれてくることが一番いいとわかるばかりでした。それなのに、現代の産科医療現場はそうなってはいない。そもそも医療は、本当は人を幸せにするための学問のはずなのに、医療のお陰で人が幸せになっている場面は、多くはありません。

龍村: 先生の素敵なところは、女性が本質的に持っている大自然の叡智としかいいようがない何かを当然持ってらっしゃるわけだけれど、と同時にそれが一体何なのかをちゃんと捉える眼をもってらっしゃる。それは、人類に例えるのなら、生命体としては38億年という長い歳月の中で、自分の意志を遙かに超えた直感的な感性があり、同時に人類は自分自身の存在を意識し、世界を客観的に観て物事を理解して対処する「知性」を持っている。
この2つの相対する側面を大野先生はお持ちなんですよね。そして、その2つを調和させることが本来の人間のあるべき姿だと思います。

大野: 私たちのところは開院後5年になります。帝王切開の必要なお産というのはありますが、本当にまれです。昨年秋以降200人近いかたがお産されていますが、この間帝王切開はありません。これは一般的な施設で帝王切開率が2割以上、ときに4割近いという現実からは、信じてもらえないかもしれません。

龍村: 結果として190数人が帝王切開なしで生まれたという事実は、たとえばすごい最新鋭の機材を使ってサポートしています、というより遙かにすばらしい。それは先生のとっている基本的なポジショニングが、真理にあっているのだと思いますよ。

一見、科学技術の進歩に逆らっているというふうに見えがちなところがあるけれど、そうじゃない。野生と科学技術が対立するという発想ではない。本当の意味で技術の進歩というものをちゃんと正しい方向に持っていこうとすると結局先生のような姿勢になってくる。これはガイアの哲学と同じことではないかと思うのです。

大野: 悪いのは産科学ではない。楽で便利で簡単、安全というのを追求している今の産科医療のあり方に問題があるのかもしれません。
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