明日香医院
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【書評】
連載・続絵本がともすあかり32  捧げる3 母として自分を
2009年4月8日(水)付 中日新聞(夕刊)
松井るり子

自分のお産は自分では見えなくて助かったと思っているし、人のお産は見たことないし、見る予定もないと思っていたのですが、『いのちを産む』の産婦さんたちの写真の美しさに、深く心を打たれました。生まれたてのあかちゃんのかわいさにも参りました。
自然なお産はいいですよということを、いくら字で知っても、不安や恐怖を克服する力には、なかなかなり得ません。私も結婚前に出版社で働いていたときに、自然出産の本を2冊作ったことがあったので、知識だけは持っていました。
「自然出産は、いいみたいねえ。だけど、お産は何が起こるか分からない。最初だし、いざというときはその場で何でも対応できる大きいところが安心かな。大は小を兼ねるだろう」と考えて、大きいところで産みました。

ところが、大は小を兼ねませんでした。不本意なことがたくさんあって、おっぱいは出ないし、マタニティーブルーもつらかったので、2度目3度目は小さいところで自然出産しました。空から花びらが降ってくるような幸福感に満たされて、「マタニティーゴールドだあ」と思いました。
そこから始まった育児の、なんと楽しかったことでしょう。大きな病院の管理上には必要で、私の体には不要なあれこれをされないで、小さいところで、ただふつーうに見守ってもらうだけで、お産ってこんなにいいものだったのか!とびっくりしました。

産婦人科も本屋さんと同じです。小さいところがどんどんつぶれて、大きいところに集約されようとしています。大きかったところもつぶれて、産婦さんたちは医療難民となって、遠いところまで行かなくてはなりません。
こういう現状の中、自然なお産の礼賛だけをしていてもだめだと思われた大野先生の志に触れると、「私のお産はとっくに終わっちゃったもん」と何もしない自分が、恥ずかしくなります。

宮崎さんによる97枚の写真を見ていると、どんなことばより大きな力で、お産本来のすばらしさが伝わってきます。おかあさんたちが、新しいいのちのために自分を捧げておられる姿の尊さに、涙がこぼれます。
こういうお産がとても難しいことになりつつある今、どうか間に合って、自然なお産が守られますようにと祈る気持ちで、この本をご紹介します。いのちの根っこに触れることができて、心が洗われる本です。

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