明日香医院
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1.あたりまえのお産
自然分娩
このところ、マスコミや雑誌などの世間の動きを見ていると、自然分娩への回帰、あるいは自然分娩指向が流行のようです。病院でも自然分娩を掲げているところが、少なくありません。自然分娩という言葉は、ちまたにあふれています。

「自然」という言葉を使うとそれだけで何かいいものの様に納得してしまいがちですが、それでは、世間でいうところの自然分娩は、どんなお産をさしているのでしょう。

帝王切開でなければ、自然分娩なのでしょうか。それとも、赤ちゃんが産まれるとき、吸引や鉗子で引っぱり出さなければ、自然分娩なのでしょうか。自然に始まった陣痛で、陣痛促進剤を使わなければ、自然分娩なのでしょうか。会陰切開をしないお産が自然分娩なのでしょうか。

産科学的には、正常分娩という言葉があります。狭い意味での正常分娩は、薬を使わず、会陰切開も裂傷もないお産のことです。けれど今の病院の病院分娩の現状は、初産の場合そんなお産は1%程度です。その割には、自然分娩という言葉を頻繁に耳にします。

現代では、あるいは世間でいうところの「自然分娩」という言葉で表現されている状況がどんなかと言えば、自然に始まった陣痛で、お腹を切ることなく、下から、つまり、経膣的に産まれることのようです。途中で薬で促進しようが、会陰切開しようが、自然分娩といわれていることが多いのです。薬で陣痛を起こした分娩は誘発分娩と言われることが多いのですが、赤ちゃんが出るとき吸引をしても、自然分娩と呼ぶこともあるようです。ともかく、よくわかりません。

自然分娩という言葉は、本当は、もっと人間本来の、命の営みを意味していたはず、産む力と産まれ来る力、両方の自然と命の尊厳を表す言葉だったはずです。本当は、お産のやり方を示す言葉ではなくて、そのあり方を示す言葉だったのだと私は思います。けれども、自然分娩という言葉は通りがいいために、今では、手垢の付いた、嘘っぽい、うさんくさい、よくわからない言葉になってしまったように感じます。その言葉がいつのまにか商業主義に乗せられてしまった様な悲しさを感じます。
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